「ごめん、ちょっと付き合ってくんない?」
は?とか何に?とかと私の口が答えるより先に、その金髪爽やか系イケメンは私の首筋に何かをぶつんと刺した。なんだそりゃ。兄ちゃんそれってナンパですらねえですけど。ただの爽やか傷害罪ですけど。なんだそりゃ。
しかしながらじわりとこみ上げた現実的感覚を脳が受け取るやいなや、新作リップできれいに澄ましていた私の唇は「痛ッてぇ!!」とはしたなく叫び声をあげる。不快な異物感を手早く引っこ抜くと、そこにはかわいらしい押しピンのようなものが突き刺さっていた。悪意だ。誰だか知らないがこいつは間違いなく悪意である。「この野郎何しやがる」の「この野郎」まで言ってしまったところで踏みとどまり、咳払いをして「痛いじゃないですかぁ」と半泣きの顔をつくると、イケメンはきょとんとした顔で私の顔をのぞき込んだ。おう近くで見てくれるなよ兄ちゃん、元の悪さがバレるだろう。
「おかしいなあ、キミって念能力者?」
だったら何だヤるかオラ、という顔をしそうになりながらもとりあえず突き刺されたブツを突き返して、財布から取り出した絆創膏を手探りで首筋に貼る。華金の繁華街は人で溢れていたが、私達の周りに人はいなかった。おそらくさっきの私のおよそ乙女とは思えない悲鳴が原因だろう。まさかこの爽やか童顔イケメンが突如として人畜無害系女子の首筋に尖った何かをブスリするとは夢にも思うまい。
「えっと、私に何かご用ですか?」
回し蹴りを入れたい気持ちをぐっと堪え、精一杯の困り笑顔で小首をかしげて見せる。この私、顔と性格とスタイルと頭は悪いが身分は女子大生だ。しかもここは大学最寄りの駅前だ。こんなところで乱闘騒ぎを起こしては退学になりかねない。
私がそんなふうに小さく小さく悩んでいると、イケメンはその尖った何かで私に再挑戦をかましてきた。私はそれを大学一年生女子然としたウブい動作で避ける。
しかしイケメンのほうが一枚上手だった。完全に背後を取られてもう一度首に何かを刺される。が、二度同じ手を食う私ではない。
「破ァッ!!」
「えっ」
イケメンの土手っ腹に肘鉄を一発。首筋に刺さったものは粉々に砕け散る。
「申し遅れましたお兄さん、私寺生まれの除念師です」
絶句したイケメンを放置して踵を返す。人混みの中からぼそりと「Tさん」と聞こえた。