ハロー世界、私しがないコンビニ店員!なんと今、平和なはずの私の勤務先に強盗がいるの!ワーオ刺激的!
なんてことは全然思っていない。私は引き攣り笑いで黒目出し帽に黒ジャンパーにジーンズで拳銃を持った典型的強盗スタイルのお客様の対応にあたっていた。彼の注文はこうだ。「レジの金全部袋に詰めて出せ、逆らったら殺す。」
冗談じゃない、こちとらバイトかけもち奨学金フル活用の苦学生である。こんな大問題が起きてしれっとしていられるほど儲かる店ではない以上、この黒い悪意の塊を根源から抹消しなければ高校生から勤続していい感じに膨れた時給がパーンしてしまう。あるまじき暴挙は相応の暴力によって排除されるべきた。神よ我に力を与えたまえ!火を吹け黄金の右腕!
「聞いてんのかテメェ、頭ブチ抜くぞ!」
「ごめんなさい私今日はじめてでまだレジの扱い全然わかんないんですぅ!」
「タメにならねぇ嘘つくんじゃねーよ!さっさとやれバカ女!!」
バカとはなんだバカとは、確かに色々滑って仕方なく第四志望だが強盗かますならず者よりか遥かに堅牢なおつむをしていることは最早自明である。私はついに0ジェニースマイルを凍り付かせて肉まんの蒸し器に目をやった。これ投げたら勝てそうな気はするが銃は如何ともし難い。
まあ一番の誤算は、この店がコンビニエンスとは名ばかりの設備しか整えていないがため、通報装置もカラーボールもないことだが。
私は頭を抱えたい気持ちをどうにかしてヘッドロックし、痺れを切らして銃で私をグイグイ押してくる強盗と向き合う。やめてやめてこわいこわい。でもここで働けなくなったらろくな仕事ないもん田舎だもん実家暮らしだもん都会の国立大受かってたらこんなつまらない戦いしなかったのに私のバカ!バカバカバカ!
「どけよ。」
不意に降り注いだ知らない声に、私は反射的に「助けろください!」と視線を送った。それから冷静になって見れば、強盗の後ろに立っているのはこれまた凶悪な人相のお兄さんである。これで善意から助けてくれたりしたらギャップ萌えで惚れてしまうが、額の青筋が彼の単なる不機嫌を物語っている。
次の瞬間、ガンッという鈍い音がして、憐れ悪意は泡と消えた。
「・・・ありがとうございます。」
「あ?・・・あぁ、おう。」
極悪面のお兄さんは強盗を床に転がしながら何か意外そうに返事をして、それからカゴ二つ分の酒類を無造作にレジに置いた。私はそそくさとバーコードをピコピコ読み取っていく。
「これで足りるか?」
「あ、ち、ちょっと待ってください。」
大量の缶ビールを数えてレジに打ち込み、改めて彼の差し出した紙幣を見る。一万ジェニー。会計は一万およそ三千ジェニー。
「・・・足りませんね。」
「げっ、マジかよ」
「ご安心ください、ここに三千ジェニーございます。」
私は彼のくしゃくしゃの一万ジェニー札と、スカートのポケットから出した三つ折りの千ジェニー札三枚を引き出しのガタガタするレジに仕舞い、お釣りとレシートを彼に渡した。
「ありがとうございました。またのご来店をお待ちしております。」