誰も彼を理解することはできない。私だってそう、彼を理解することはできない。理解したいとさえ思わない。
彼はいつも孤独だ。たぶん「仲間」はいるのだろうけれど、それに依存しない。食えるところだけ、おいしいとこだけ食って食い尽くして捨ててしまう。あとは見向きもしない。情なんかはない。
もしも私においしいところがあるのだとして、それが人よりちょっと多いのだとして、いつか食べつくされてしまうことに変わりはなかった。でもそれを嫌だと言ったって彼の気は変わらないし、もしも機嫌を損ねて途中で食べてもらえなくなったら、それこそ哀れだ。食べるために殺されたのなら全て食べてほしい。一度食べられると決めたのなら、最期まで食べられなければ損だ。私はいつもそう言い聞かせて、どうにか私を抑えていた。
「寝ないの?イルミ」
布団から顔だけ出して問うと、イルミは黒髪をきらきらさせてこちらを見た。月のいい夜は一層美人に見える。ほんと言うとちょっと怖いのだけれど、それすら彼の美しさの一部のように思えるから不思議だ。月に惑わされるとはよく言ったものだ。
「寝る場所ないだろ」
「隣においでよ」
「それ、意味わかって言ってる?」
「わからないけど」
寝惚けた頭をイルミの指がすべる。手入れのなってないぼさぼさ髪を彼に触られるのは不本意だけれど、気分はよかった。暖かい感触がする。生きている。彼はちゃんとここにいるのだ。硬い手の甲を撫ぜると、私はなんとなく何もかもがどうでもいいような気がしてきた。――食べのこされちゃってもいいかもしれない。ちょっとわがまま言ってみたい。
「イルミ、キスして」
整った顔がぐらりと崩れて私のほうに落ちてきた。食べられる。食べられよう。半分ちぎれたっていい。わたしぜんぶ、いなくなってしまったっていい。