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見えない糸 うちに居候という立場の人間がいたことを、オレはもうあまり不思議には思っていない。 本人はわかっていないが、ほど抵抗なくうちに馴染んだ人間はいままでいなかった。見習いを終えて正式に使用人になった人間でさえ、うちのルールを1から10まで遵守できる者ばかりではない。オレはそれを悪いことだとは思わないが、兄貴やおふくろはそうではない。基本部外者を信用せず、ルール違反に厳しい。その二人がなぜか、に対してはずっと好意的だった。 最初はオレも「そういうこともあるんだな」くらいに考えていた。でもあとになって、そうではないことに気が付いた。 はうちに来てから出て行くまでの半年間、一度も注意や折檻を受けなかった。ルール違反を犯さなかったのだ。全部教えてやることなんてできるはずがないのに、まるで見えない糸が見えているみたいに、あいつはいつもそれを踏む一歩手前で必ず立ち止まった。 もともと引き際を見極めるのがうまいやつだとは思っていたが、きっとあれはそういう次元のものではない。不気味なくらいよく見ていて、疑わしいほど正確だ。それを指摘したカルトは気持ちが悪いと言ってを嫌っていたが、オレは納得した。 兄貴やおふくろがを受け入れたのは、あいつがいつも上手に線を引くからだ。ルール通りに区分けして、はみ出さないよう足元を見る。それがにとって"ふつうのこと"だった。最初から、そういう奴だったのだ。 |