まいごのまいごの


「手、貸してください!」

 彼女がイルミ様を背負って現れたとき、私はひどく困惑した。
 まずその状況が理解不能だったし、門が開いたという知らせもなかった。つまり侵入者であることは間違いないのに、それにしてはあまりにも平凡で平和な顔つきで、息を切らしながら「なんでもいいからどうにかして」という目でこちらに訴えかけてくる。
――なんでこんなところにあんなのが。
 それが一番正直な感想だった。

「私がお運びします」

 念の為警戒しながら彼女に近寄り、そう言って強引にイルミ様を引き受けると、彼女は少し眉間に皺を寄せた。払いのけられたことが不服だという顔にも見えた。しかしそれよりも、間近で見た彼女の瞳がうっすらと潤んでいることに私は驚いていた。迷子になった小さな子供にふいに手を掴まれてしまったような、そういうどうしようもない焦りが湧き上がってくる。

 敵ではないのだろう、と直感した。しかし私の直感は関係ない。敷地内にいるのであれば不法侵入であり、その時点で対処すべき存在であることは確定している。しかし彼女に抵抗の意志はない。それどころか、本当はこんなところに来るはずではなかったのに、今すぐここから立ち去りたいのに、どうすることもできないでただじっと耐えているような表情だった。

 なんて場違いな生き物が迷い込んでしまったのだろう。
 哀れみにも近い感情を抱きながら、私は彼女の今後の処遇について想像した。そして、すぐにやめた。残酷な空想は抱かないほうが、自分のためだ。