こおとし





頭から血を被ったを抱えて集合場所へ行くと、真っ先に表情を変えたのはカルトだった。それからキルアが意外そうな顔でを見て、カルトに視線をやる。他の人間は無反応だ。俺も含め、こうなることの予想はついていた。

「全員揃ったな。」

ゼノ祖父ちゃんが背を向けたのを合図に、全員が出口へ向かって歩き出す。
は想像していたより軽傷だったが、それでも左上半身に集中した骨折の痛みでうなされ始めている。意識があるのかないのか、時々歯を食いしばるような音が耳元に響いた。目を落とせば、さっき拭った瞼に新しく血が流れ、深い青だったはずの胸のリボンはどす黒く染まっている。

普通に歩いていると振動で痛がって呻くので少し速度を落としてやって、集団の最後につく。すると、珍しく最後尾を歩いていた親父がじっとこちらを見た。俺は一瞬考え、それからを見下ろして、合点を打つ。

「親父、あのデカい能力者わざと逃がした?」
「ああ。」

悪びれた様子もなく、むしろ楽しそうに頷く親父に、俺は軽く息を漏らした。――カルトを呼んだのも、あのタイミングでを下へ向かわせたのも、全て計算のうちだったのだろう。の性格でカルトを見殺しにできるはずがない。カルトが先に能力者と鉢合わせていれば、はまず間違いなく間に入る。実力を試す方法としては手っ取り早く、確実だ。

「試すのはいいけど・・・面倒見るの俺なんだからね。」
「どうせ手間はかかってないんだろう。」
「そうだけど。」

武芸の嗜みもない一般人に、戦うための動き方を仕込むのはふつう、面倒だ。しかし彼女は武器を与えればきちんとそれに見合った体の動かし方を研究できるようだし、何より努力を怠らない。誰も強いているわけではないのに。

「借りは返せそうか?」

親父が半ば挑発するような笑みを浮かべながら聞く。俺は心外だ、と肩をすくめたが、揺らしたせいでがぐっと唸ったので途中でやめて息を吐く。

「ベッカーの念、やっぱり返すにはこの子殺さなきゃいけなかったハズ、らしいよ。」

つまり、彼女にその自覚がないにせよ、俺は彼女にそれだけの借りを作っているということだ。それを返済するために本業とキルアの修行を少し離れて彼女についている。元はといえば俺のミスが原因なのだからそのことに不満はないし、俺自身借りっぱなしは気分が悪い。
問題は、彼女が俺の手を必要とせず育ってしまうことが有り得るかもしれない、ということ。

こちらを黙って見ている親父と視線を合わせ、荒く息をするを見下ろす。

「まあ、まだまだこれからだし。ゆっくり返すよ。」