やさしくしてね





「あ、カルト君おはよう。」

ドアを開けるとがいた。ついこのあいだギプスが外れたばかりの腕をさわりながら、たぶん外に出ようとしているのだろう。イル兄様の部屋を背に出口の方へ、ちょうど僕の部屋を通り過ぎようとしているところらしかった。
僕はできるだけ落ち着いて観察しながら、ドア思いっきり閉めてやろうかな、とちらっと考えた。けれどそれはしないで、あっけらかんと、妙にふつうにあいさつしてきたをじっと見る。

「・・・おはよう。」

わりと自然にあいさつを返した自分に少しびっくりした。あんなに嫌だと思っていたのに、もうすっかり気持ちがおさまっている。の左腕をちらっと見て、僕は少し首をひねった。

あの仕事で僕が出くわした大男はが一人で殺したのだと、あとで聞いてすごく驚いた。みじめなくらいボロボロになってたけど、それがかえっておかしい。あれだけ痛めつけられてどうして死ななかったんだろう。最初に壁に叩き付けられたときにもう死んだと思ったのに。
もしかしたら、あれでちょっとは見直したのかもしれない。まだなんとなく認めたくない気がするけれど、嫌な感じがしなくなったということは、そういうことなのだろう。それでも顔はわざと不機嫌そうにしておく。

「カルト君も、これから?」
「うん。今日は拷問だって。」
「わー・・・」

遠い目をしたをちらりと見て、僕もなんとなく「は何するの?」と訊いてみる。彼女は「ん?」と声を出して、唸りながら考える。そして結局、「走り込みとか?筋トレ?」というあいまいでものすごくどうでもいい答えを出した。

「それだけ?」
「じゃないけど、主に。」
「拷問ないの?」
「ないよ、私じゃ死んじゃうもん。」

そう言ってへらへら笑う顔には、ふしぎとあんまりイライラしない。本心なんだろうな、となんとなく思って、「そっか」と大人しくうなずいただけであとはもう訊かなかった。

それでも、死ぬかもしれないとが思っているのが本当でも、実際にやって本当に死ぬとは思えない。拷問で死ぬくらいならそのケガをしたときとっくに死んでるだろ、と心の中でだけ言って、口では別のことを言う。

「・・・イル兄様、やっぱりのこと贔屓してるよ。」
「それはない。何があってもそれはない。」
「あるってば。拷問しないし。」
「それは贔屓じゃなくて単に弱い者イジメしないってだけじゃ・・・」

言われて、それもあるかもしれない、と素直に納得した。けれどあれだけ怪我をしてもいつも通りにしているなら、軽い拷問の一つや二つ、訓練されたっていいような気がする。僕が考えこんでいると、は小さく溜息をついた。

「どうしてそんな風に思うのよ。」
「・・・拷問しないし、それに、に話しかけるときだけ口調が優しいから。」
「・・・・・・うーん・・・?」

だめだこいつ全然わかってない。ちょっと睨むと、は困ったように笑った。