お国の話





「まあなんじゃ、お前さんも難儀じゃのォ。」
「その難儀の根源って半分・・・いや九割くらいゼノさんじゃありません?」
「そうじゃったか?」
「(こんのジジイ)」
「まぁそう怒るな。死にゃせんて。」

死なないったって死にかけです、という台詞は緑茶と一緒に飲み込んで、まだキリキリ痛む胃に眉を潜める。
キルア曰く「全身に回る毒じゃないだけマシ」らしいが、毒は毒である。いや、確かにリバースしたほにゃららに血なんかは混じっていなかったので、ある程度良心的なのはまあ、分かるのだが。

「ところでこないだ言っとったのはコレでいいか?」
「あ、すみません探させてしまって。」
「構わん。」

ゼノさんがテーブルの端に積み上げた本や紙の束を顎で示すのに条件反射的に頭を下げる。それからはじめてその山をはっきりと見て、私は唐突にゾルディック家(というより、実感としてはマハさんあたり)の年季をずっしりと感じた。いつからあるのか、暗くて温度も湿度も一年を通して変わらないような部屋が圧倒的に多いであろうこの家に保管されていたとは思えない、今にもバラバラになりそうな本。そして角のない地図。

「じゃが世界地図が十年以上前の物でな。戦争で吸収された国も独立した国もいくつかあるから、それは覚えておけよ。」
「大丈夫です、流石に大陸の位置は動いてないでしょう?」
「まあな。」

ノート大に折り畳まれた地図を受け取って広げ、とりあえずパドキアの位置を確認する。文字はまだ書けるほど覚えていないが、良心的な法則があるので読めることには読める。

「ここはこの辺りじゃな。パドキア共和国デントラ地区、ククルーマウンテン。」
「標高3,722メートルですか。富士山と同じくらいだ。」
「フジ?そういえばそんな名前の山がジャポンにあったな。」
「たぶん現地では同じ富士の字を書くと思いますよ。」

テーブルの上に指で富士と書いて、ついでに湯呑みをとってお茶を啜る。ゼノさんは私の手元を見て首を傾げていた。

「同じ名前の山があるのか?」
「というか、この列島の形がほぼそのままうちの国なんですよね。富士ってこういう形の山じゃないですか?夏以外はこんな感じで雪被ってて、麓の方に樹海があったり。」
「ああ、樹海なら確かにあったが。」
「そこの名前まで一緒かはわかりませんけど、私のところでは青木ヶ原樹海って呼ばれてて自殺の名所なんです。富士山は国の象徴みたいなものなんですけど、実際自殺者の多い国だから的を射ているというかなんというか。」

ジャポンの、日本で言う関東地方のあたりを指しながらとりあえず笑っておく。聞いた話だが、歩道を歩いていても遺品らしき物が散乱していることがあるとか、人だと思って声を掛けたら死体だったとか、そういう逸話もあるらしい。

「お前さんの国は何て名前だったんじゃ?」
「日本です。ヒノモトと書いて日本。」

そう答えてまたテーブルに指を滑らせると、ゼノさんは知っているようないないような顔をした。