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おやしらず 「こんにちはー」 ノックもそこそこに乾いた木の扉を開けると、グライフさんはいかにも機嫌が悪そうに私を一瞥した。と言っても、彼の不機嫌はイルミさんが無表情なのと同じことだと私はもうわかっている。 さすが年の功というべきか、彼はすこぶる物知りで(しかも実は面倒見のいい性格で)、私がハンターを目指していると知るやいなや、飲み水を確保できない状況ではどうするとか、いざというとき食料になるものはなんだとか、毒のある植物の見分け方なんかを、丁寧に丁寧に教えてくれる。私がわからない顔をしたり質問したりすると嫌そうな顔をするが、それでもきっちり最初から最後まで話をしてくれるあたり、きっと誰かに物を教えるのが好きなのだろう。 それがわかってから、私はたびたびこの店に遊びに来ていた。きちきち鳴く床板のなるべく丈夫なところを渡るのも慣れたものだ。カウンターごしに真正面まで寄っていくと、グライフさんは「今日は何の用だ。」と小難しそうな本に目を落としたままで尋ねた。 「まあそう言わずに。今日はちゃんと用事があるんです。」 と抱えていた紙袋からブランデーの瓶を出してカウンターに置く。すると彼はあっさりと手元の本を閉じて立ち上がった。 「なんだ、用がある上に賄賂まで持ってきやがるとは。槍が降るな。」 「これはあわてんぼうなお中元です。」 お中元の概念はないと知っていたが、すぐ浮かんだのがその言葉だったのでそのまま言っておく。 「で、用件は。」 「武器を持てとの指令が下りまして。」 彼はにやりと笑んだ。やっとだな、という呟きに、私は苦笑した。 |