ご存知ですか





「あ、アマゾナさん。」

思わず声を掛けると、彼女は飲料のショーケースから顔を上げてこちらを見た。相変わらずのぎらっとした目つきに一瞬たじろいだが、すぐに笑顔を作ってくれたのでほっとして私もへらっと笑う。

「久し振りねぇ。調子はどう?」
「あんまり良くないです。70階くらいから上に上がれなくって。」
「そのクラスで未だにその程度の傷なら十分自慢できるわよ。」
「この防御力がちょっとでも腕力に行くといいんですけどねぇ・・・」

トレーニングルーム(男臭い)帰りの汗ばんだ腕になんとなく力こぶを作ってみる。まだまだ鍛える余地がありそうな感触である。無論ガッチガチになるのは御免だが。

「あなた、どうして天空闘技場なんかに挑戦しようと思ったの?」
「実はお恥ずかしながらプロハンターを目指しておりまして、ちょっと武者修行に。」
「ああ、なら同志じゃない。」

アマゾナさんが不意ににっこりと笑んだ。満面に近い笑みを見たのは初めてだったので、なんとなく感動してぽかんとしてしまったが、口ではすぐさま「ほんとですか!」とリアクションしておく。器用になったものである。

「始めはお金が欲しかったからだったけど、ここで偶然今の師匠に出会ってね。そこで初めてハンターって職業のことを知った。今はプロ目指して、試験受けながら修行してるとこ。戻ってきたのは腕試しがてら資金を稼ぐためよ。」

まあ、まさかあなたみたいな小柄な子に負けるとは思ってなかったけど。そう言って、アマゾナさんはくすくすと面白そうに笑う。本来はよく笑う人なのだろう。私は相槌を打って、「じゃあ、」と切り出す。

「今年の試験は受けたんですか?」
「まあね。でも結果は見ての通りよ。あなたは、会場では見なかったけど・・・」
「ちょっと怪我してて。来年は受けてみようと思ってます。」
「そう。じゃあまたライバルね。」

とか言いながらちょっと鋭い顔になるのやめてくれないかなあ、というのが素直な感想だったが、とりあえず「よろしくお願いします」と答えておいた。アマゾナさんはほんの少し笑んで、ショーケースからスポーツドリンクのボトルを取り出す。

「・・・あ、そうだアマゾナさん。」
「何?」
「今年の試験にヒソカって人、いました・・・よね?」
「ああ、あいつ。居たわよ。」
「(うわぁ・・・)」

なんだか存在を認識したらものすごく怖くなった。興味本位で聞くものではなかったようだ。後悔しながらも「そうですか」と平静を装って答え、数秒考えて、また口を開く。

「来年も来るでしょうから、お互い気を付けましょう。」
「・・・・どうして?」
「いやー、彼に関しては嫌な予感しかしないんですよねー・・・」
「そうじゃなくて、どうして彼が不合格だって思ったの?」

咄嗟に愛想笑いの顔を作って、「小耳に挟んだだけですよ」と取り繕う。彼女は納得いかないような顔をしていたけれど、特に言及はしてこなかった。

「じゃあ、私はこれで。」